Topics 2002年11月21日〜30日
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21日 Enron後のDCプラン
22日 従業員への説明責任
23日 年金債務過少見積りの可能性
26日 レイオフと倒産件数
21日 Enron後のDCプラン Source : PLANSPONSOR's 2002 Defined Contribution survey
Enronが破綻したのが、2001年12月だった。それから約1年経った訳だ。Enron破綻を切っ掛けに、確定拠出プラン(以下DC)の見直しが行われた。それは、行政、立法、企業、個人など、様々なレベルで行われたが、上記Sourceは、そうした変化を2001年との比較で、面白い結果を見せている。
以下、Enron破綻と関連があると思われる結果項目について、ピックアップしておく。
まず、DCへの加入率が、全ての企業レベルで、低下している点である。これはもちろん、株式市場の低迷等により、DCによる資産運用自体の魅力が低下したことも大きいが、Enron破綻に伴う心理的効果もあったのではないか。
DCの投資先の選択肢を広げた企業が多い。特に、大企業では目立っている。これは、のちほど見るように、選択肢に自社株が含まれていればいるほど、こうした対応を採った企業が多いことを示している。
他方、DCに加入している従業員が選択している投資先の数も、やはり1年前に較べて増えている。なお、平均は4.65件となっている。
自社株がDCの選択肢として含まれていると回答した企業の割合は、低下している。
DC資産全体に占める自社株の割合は、平均で9.3%に過ぎない。これは、確定給付型の企業年金(DB)における自社株運用の上限が10%に規制されていることが、一定の歯止めになっている可能性を示唆するものではないだろうか。
自社株全体に占める、DCプラン(=従業員)による保有割合も低下している。
DCを提供している企業で、同時にDBを提供している企業の割合も低下している。Enron、株式低迷により、DCプランの資産はダメージを受けた。にもかかわらず、DBへの回帰の動きはまったく見られない。アメリカ企業は、徐々にDBと訣別しようとしているのだろうか。
マッチング拠出を行っている企業の割合はわずかに低下したものの、依然として高い水準(平均77.3%)となっている
個人勘定の資産の再評価は、ほぼ毎日行われている。昨年との比較では、1ヶ月より長い期間で再評価する企業は大幅に減少している。変化が速く、しかも経済全体が必ずしも好調ではない時期であることの反映であろう。
DC加入者に対する投資アドバイスは、大企業になるほど増えており、逆に規模が小さくなると減らしている。大企業ではEnron効果が出ていると見られる。他方、中小規模の企業では、DCに関するコスト節減が行われているものと見られる。
DCの受給者(退職者、辞職者)への教育を行っている企業の割合も一様に増えている。
22日 従業員への説明責任 Source : WorkUSA 2002 (Watson Wyatt Worldwide)
アメリカ企業は、従業員の信頼を失いつつある。そんな調査結果が発表された。Enron、WorldComをはじめとして、企業会計のスキャンダル、CEO達の莫大な離職手当、相次ぐレイオフが、企業、企業幹部に対する従業員の信頼を低下させていてる。
上記Sourceで、アメリカ企業の従業員達は、
- 自分達の会社の経営幹部を信頼しなくなっている。
- 自分達の仕事の内容と、会社の経営方針、事業目的との関連性を見失いつつある。
- 経営環境の変化に対する会社の対応を評価していない。
さらに、同レポートは、こうした問題を放置せず、すぐに対応すべきとしている。何故なら、上記3点について、従業員が高く評価している企業の業績は、そうでない企業の業績よりも明らかに高い。従って、従業員の信頼を失いつつある企業は、やがて投資家からの信頼も失いかねないのである。
上記レポートのポイントは次の通り。
従業員の企業幹部に対する信頼感は、2000年に較べて低下している。
企業幹部に対する従業員の信頼度が高い企業と低い企業では、株主利益率が顕著に異なる。従業員の低い信頼度を放置すれば、やがては企業の競争力を低下させることになる。(図中のTRS="Three-year total returns to shareholders"。)
また、事業環境の変化に対する企業幹部の対応がうまくいっていると従業員が評価している企業のTRSは、従業員の評価が低い企業にくらべて圧倒的に高い。
経営方針を大きく変更した場合に、新たな経営方針と従業員の仕事内容との関連性を、従業員にうまく説明できていない企業が増えている。
HR(Human Resources)部門が効果的に働いていると従業員が評価している企業では、従業員の企業(幹部)に対する信頼感は高い。HRは、企業の経営方針を決定する幹部と従業員の間のコミュニケーションを円滑にするという重要な役割を担っている。
従業員から、企業と従業員の間のコミュニケーションがうまくいっていると評価されている企業は、TRSも高い。
報酬制度について、パフォーマンスの高い従業員が正当に評価されていると感じている従業員の割合は30%、また、パフォーマンスと報酬が関連していると感じている従業員の割合は35%しかない。
その結果、自らの業績が適切に報酬に反映されておらず、他の企業の同じ職位・職制の報酬と同等だと感じている従業員の割合が、41%しかない。また、福利厚生についても、42%の従業員しか、他社と同等だと感じていない。
好景気の局面では、あまり問題とされていなかった、企業と従業員の間のコミュニケーション不足、報酬制度に対する不満が、ここにきて徐々に表面化しつつあるという印象を持った。
23日 年金債務過少見積りの可能性 Source : Accounting for Pensions and Other Postretirement Benefits 2002 (Watson Wyatt Worldwide)
Watson Wyatt Worldwideが、2001年度の各企業の財務諸表のうち、FAS 87(=Financial Accounting Standards Board Statements 87)とFAS 106に基づくステートメントにつき、サンプル抽出し、分析したレポートを発表した。
FAS 87は、確定給付型企業年金(DBプラン)に関する財務報告であり、FAS 106は、DBプラン以外の退職後のベネフィット(主に退職者医療保険)に関する財務報告である。
- FAS 87、106で基本となる経済的基礎率は、「給付債務に関する現在価値割引率」、「給与上昇率」、「資産運用に関する長期利益率」である。
- FAS 87の給付債務に関する現在価値割引率については、9割以上の企業が、6.51〜7.50%の割引率を用いている。2000年度に較べて、全体的に低下している。
- FAS 87の給与上昇率については、4.01〜5.00%を利用している企業が多い。
- FAS 87の資産運用に関する長期利益率に関しては、8.01〜10.00%を利用している企業が圧倒的多数である。
- 年金給付の安全率(=資産の市場価値/給付債務の現在価値)が1を超えている(=積立超過)企業は、製造業で21%、サービス業で44%となっている。全体の平均安全率は、2000年度の1.17から2001年度は0.95に低下している。これは、給付債務に関する現在価値割引率が低下することにより分母が増大する一方、株式市場の低迷等により、資産の市場価値が低下したことが原因と考えられる。
- FAS 106に関する経済的基礎率の平均値は、次のようになっている。
- FAS 106の給付債務に関する現在価値割引率は、FAS 87とほぼ同水準である。実際、DBプランも退職者医療保険も提供している企業のうち83%が同じレートを使用している。
- FAS 106では、将来の医療費の伸びについて、現在および将来見通しを示さなければならない。報告書作成時点での医療費伸び率は、90年代前半に低下していたものの、96年を底にして反転しており、2001年時点での伸び率を8.74%と見ている。また、将来の医療費の伸び率の見通しについては、平均で5.24%となっている。しかし、実際には、2001年、2002年ともに、二桁の伸び率になることは、ほぼ確実視されている。また、将来の医療費伸び率は、この10年間一度も経験したことのないような低水準である。
この分析レポートを見る限り、次の3点が懸念事項として挙げられる。
- FAS 87については、2002年度も2001年度と同様の傾向が見られるはずだ。即ち、資産の現在価値の目減りと給付債務の増大である。2001年から2002年にかけて、FRBが積極的にFFRを切り下げてきた効果が、2002年には完全に反映されることになると予想されるためである。しかも、資産運用に関する長期利益率がこんなに高い水準のまま推移するとは考えにくい。従って、給付債務の割引率が高すぎる、即ち給付債務の現在価値が低すぎる可能性が高い。
- 年金制度が積立不足に陥る企業が多数発生するものと見られる。これは、今までにも何度か指摘してきたことだが、それが現実になるのはほぼ確実である。現在のように低金利、低株価の状況では、積立不足は、給付の切り下げか、企業による追加拠出による穴埋めしか手段はない。特に、後者の場合には、企業利益を直撃することになり、株価の低迷に拍車をかける怖れがある。
- 医療費については、現在の医療費高騰のトレンドがほとんど反映されていない。FAS 106についても、将来の退職者医療費が過少評価されている可能性がある。
こうしてみると、アメリカ企業全体について、年金債務・退職者医療債務が過少評価されている傾向にあるようだ。特に、年金債務は莫大な規模となっており、割引率を少し動かしただけで巨額の変化が生じる。アメリカ企業の財務報告が、現実とは乖離した報告を行っている可能性を否定することはできないと思っておいた方がよさそうだ。
26日 レイオフと倒産件数
Source : Bankruptcy Filings Hit Fiscal Year Histric High in 2002 (pdf) (US Court)
Mass Layoffs (BLS)
企業によるレイオフの動きは次第に沈静化しつつある。26日に労働省が発表した大量レイオフを開始した企業数は、トレンドとして現象傾向にある。
それは、長期化したレイオフの数字の動きを見ても明らかになっている。
一方、2002年度(司法界の年度は、10月〜9月)の破産裁判所に対する破産申請件数は、過去最高となった。特に、主に個人の破産申請が急増(7.8%増)しているのが目立つ。
これを破産処理方法別(Chapter別)に見ると、主に個人の破産、中小規模企業の清算に利用されるChapter 7の申請件数が6.9%増、大規模企業の再建に利用されるChapter 11の申請が、なんと10.9%増にもなっている。昨年のSeptember 11以降、大企業の倒産、再建申請が急増したとの印象を裏付ける結果となっている。
倒産申請件数を長期トレンドで見ると、次のようになり、2001年に入ってから、急増している模様がわかる。特に注目されているのが、2002年度第W四半期に倒産申請件数が増加している点である。これまでの傾向として、年度最後の四半期(第W四半期)は、直前の第V四半期よりも倒産申請件数が少なくなることが多かった。ところが、2002年度第W四半期は、増えてしまっているのである。
企業によるレイオフが一段落しつつあるものの、個人の倒産件数は増加している。これは、企業の事業再編は進みつつあり、冷え込んだ市場に適用できるだけの体力は回復しつつあるものの、新たな雇用を生み出し、個人の所得増にまで繋げるには至っていない様子を表していると考えられる。本格的な景気回復には、まだ時間がかかりそうだ。
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